86歳の現役釣り師。手足が不自由でも父が『黒鯛』を追い続ける理由

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かつては険しい磯を軽々と歩き、黒鯛を追い求めていた父。しかし、86歳になった今の父は、病気の後遺症に加え、老化による衰えから逃れることはできません。

指先が思うように動かず、ラインを結ぶのも一苦労。足腰も弱り、時には杖が必要なほど歩くことも難しくなりました。昔は何でも一人でこなしていた父が、今では私の手助けを必要としている。そんな姿を隣で見ていると、息子として切なくなることも正直あります。

それでも、父は「海へ行きたい」と言います。車を横付けできる堤防で、不自由な体で懸命にウキを見つめる父。その情熱は、昔から少しも変わっていません。

今回は、そんな父の今の姿と、彼がずっとこだわっている仕掛けと大切に使い続けている釣り道具を紹介したいと思います。いつまで一緒に行けるかわからないけれど、父が竿を出せる限り、私は隣でサポートし続けたい。そんな思いを込めて書きました。

筆者
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この記事は、こんな人におすすめです!

  • 親と一緒に釣りを楽しんでいる(いつか楽しみたい)方
  • 年齢や体の不自由さを感じつつも、釣りを諦めたくない方
  • フカセ釣り、黒鯛釣りが大好きな方
  • ベテラン釣り師が長年使い続ける「信頼の道具」を知りたい方
  • 「釣りは釣果だけが全てではない」と感じている方
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磯の上で過ごした幼少期。父の背中を追った記憶

私が小学生に上がった頃から、父は月に数回しかない貴重な休日のたびに、私をよく釣りに連れて行ってくれました。行き先は、江ノ島や城ヶ島、荒崎といった三浦半島の磯場が中心でした。

荒々しい磯場と、父の後ろ姿

まだ体が小さかった私にとって、ゴツゴツとした岩肌が続く磯は、一歩踏み入れるだけで恐怖を感じるフィールドでした。打ち寄せる波の音、滑りやすい足場。それでも必死に父の後をついて行ったのは、そこが父と過ごせる数少ない、特別な時間だと子供心にわかっていたからだと思います。

また、釣りに行く途中で普段はあまり買ってもらえないような、好きなお菓子やジュースを買ってもらえるのも、子供心に最高に嬉しいイベントでした。磯の怖さよりも「父と過ごせる時間」や「特別なおやつ」への期待が勝っていたのでしょう。

当時から揺るぎなかった「黒鯛一本」のスタイル

その頃から、父の狙いは決まって「黒鯛一本」でした。

周りが何を釣っていようと、父は脇目も振らずにコマセを撒き、じっとウキを見つめていました。その背中は、子供の目にもどこか職人のようで、寄せ付けない厳しさと、不思議な安心感が同居していたのを覚えています。

フカセ釣りというスタイル、そして黒鯛という魚への執着。父の釣り師としての原点は、この頃すでに完成されていたのだと思います。

空白の時を経て、親子から「ライバル」へ

中学、高校と部活に明け暮れる日々の中で、父と海へ行く機会はほとんどなくなっていました。再び父と並んで竿を出すようになったのは、私が大学生になり、車の免許を取得した頃のことです。

ちょうどその頃、父は脳梗塞という大病を患いました。一時は釣りどころではない状況でしたが、父は懸命なリハビリを経て、再び海へと戻ってきました。再開した親子釣行。ハンドルを握るのは父から私へと代わりましたが、車内の空気は以前と変わらない、独特の期待感に包まれていました。

社会人になり、恒例となった「月一の釣り旅行」

私が社会人になってからは、毎月一回の釣り旅行が二人の慣例となりました。深夜に出発して丸一日釣りをして宿泊、翌朝も竿を出して帰路につく。静岡、神奈川、千葉と、黒鯛を求めて各地の波止や磯を巡りました。

しかし、黒鯛はそう簡単に微笑んではくれません。病の影響もあってか、父も私もなかなか本命に出会えない日々が続きました。それでも、二人で海を見つめ、夜は現地の宿で酒を酌み交わす。そんな時間が、何よりの楽しみであり、癒しになっていたのです。

南房総での歓喜。雨に打たれて念願の47cm

ついにその時が訪れたのは、千葉の南房総を訪れた時でした。忘れもしない、梅雨の真っ只中。雨が降りしきる最悪のコンディションの中、二人でレインスーツに身を包み、黙々と竿を出していました。

その静寂を破り、私の竿を大きく曲げたのは、念願の47cmの黒鯛でした。

近くの釣具店に持ち込むと、その店は新聞社に釣果報告をしているとのこと。「他にこれ以上のサイズが出ていなければ新聞に載るよ」と言われ、翌朝、期待を胸にコンビニでスポーツ新聞を手に取りました。

紙面には、紛れもなく自分の名前とサイズが刻まれていました。写真もない文字だけの小さな掲載でしたが、嬉しくてたまらず、同じ新聞を2部購入したのを覚えています。父も、まるで自分のことのように手放しで喜んでくれました。その新聞は今でも大切に保管しており、当時は会う人みんなに自慢して回ったほどです。

それ以来、負けた方がビールを奢るという「親子対決」のルールができ、私たちのホームグラウンドは南房総へと定まっていきました。

老いと病。できなくなったことが増えていく現実

父が70歳を超えた頃から、老化と病の影響が顕著に表れ始めました。かつては険しい磯場をひょいひょいと歩いていた父でしたが、足の痛みが強まり、思うように体が動かせなくなっていきました。

あんなに大好きだった磯を諦め、釣り場選びの基準は「車を横付けできるかどうか」に変わりました。フィールドが狭まっていく現実は、一人の釣り師として、見ていて胸が締め付けられる思いでした。

もどかしさと、変わっていく「ライン結び」

病気の後遺症もあり、指先の細かい作業も困難になりました。かつては目をつぶってでも結んでいたであろうライン結びに、信じられないほどの時間がかかるようになったのです。

隣で見守っていると、正直こちらがイライラしてしまうほどのスピード。しかも、ようやく結び終えたノットが甘く、これでは大物がかかれば一たまりもないと分かっていても、私は極力手を貸さないようにしていました。それが父のプライドだと知っていたからです。

しかし、追い打ちをかけるように腰の骨折や新たな病の発覚が重なりました。一時は海から完全に遠ざかってしまうのではないかと危惧した時期もありました。

「ありがとう」という言葉に宿る、嬉しさと寂しさ

最近の釣行では、私の立ち位置も大きく変わりました。準備のすべてを私が担い、父の仕掛けも私が作り、父はただ餌を付けてアタリを待つだけ。そんなスタイルが定着しつつあります。

ほんの少し前までは「自分でやるから放っておけ」と頑なだった父が、今では仕掛けを渡すと「ありがとう」と口にするようになりました。

その言葉を聞くたびに、父の丸くなった背中に触れたような温かさを感じると同時に、抗えない時の流れに対する言いようのない寂しさがこみ上げてきます。父の状態が劇的に回復することはないかもしれません。だからこそ今は、これ以上悪くならないようにと願うことしかできません。

それでも海に立つ。父を動かす「黒鯛」への執念

現在の父の状況は、決して楽なものではありません。釣り場へ向かう道中、父はポツリと「これが最後かもしれんな」と口にすることが増えました。その言葉を聞くたびに、胸の奥がギュッとなるような感覚に襲われます。

それでも父が海へ行こうとするのは、死ぬまでにもう一度だけ黒鯛の引きを味わいたいという執念なのか、それとも息子と過ごす時間に重きを置いているのか。本当のところはわかりません。ただ、今の父を見ていると、釣果そのものよりも「海に立つこと」そのものが目的になっているように感じます。

釣りという名の「生き甲斐」

86歳になり、一人で暮らす父。私が近くに住んでいるとはいえ、一人で過ごす時間はきっと寂しいはずです。それでも、大きな病気や怪我を乗り越え、不自由な体で自立して暮らしていられるのは、心の中に「釣り」という消えない灯火があるからではないでしょうか。

釣りは、父にとっての「生き甲斐」そのもの。海という厳しい自然の中に身を置くことが、父の生命力を繋ぎ止めている。そんな気がしてなりません。

変わらないスタイルと、奇跡を願う心

正直に言えば、今の父の体調や、頑なに守り続けている昔ながらのスタイルで黒鯛を釣り上げるのは、非常に難しいことかもしれません。しかし、釣りは何が起こるかわからないからこそ面白い。

「今のやり方じゃ釣れないよ」と心の中で思いつつも、一方で「奇跡が起きて、父の竿が大きくしなってほしい」と切に願っている自分がいます。不器用で、頑固で、でも海と釣りを愛している。そんな父に釣りを教えてもらったことには、言葉では言い尽くせないほど感謝しています。

たとえ釣果に恵まれなくても、父が海を眺め、ウキが沈むのを待っている。その姿を見られること自体が、今の私にとっての「最高の釣果」なのかもしれません。

【道具紹介】父の右腕。今の父を支える「愛用タックル」

「フカセ一筋」と聞くと、さぞかし高価な道具を揃えていると思われるかもしれません。しかし、父の場合は全く逆です。

「安くて良いものを愛する庶民派」と言えば聞こえはいいですが、実際のところは、かなりの「ケチ」で「貧乏性」。最新モデルや高級ブランドには目もくれず、ワゴンセールの掘り出し物をこよなく愛するタイプなのです。

ですが、そんな安価な道具をボロボロになるまで使い倒し、自分のスタイルを貫き通す姿には、高級タックルを並べるのとはまた違う、不思議な説得力があります。

華美さよりも実力。父が選ぶ「質実剛健」なロッド

父が長年愛用しているのは、1.5号(5.3m)の磯竿です。 現在は、糸通しが楽でライントラブルの少ない「インターライン(中通し)」タイプと、スタンダードな「外ガイド」タイプの2本を使い分けています。

高価なカーボンロッドではありませんが、不自由になった手元でも扱いやすく、黒鯛の引きをダイレクトに楽しめるこの竿こそが、父にとっての最適解。折れても、傷ついても、自分で手入れをして使い続けるその姿には、道具への深い愛情を感じます。

【父の愛用モデルに近いおすすめロッド】

穂先への糸絡みが皆無なので、風の強い日や夜釣りでもストレスなく釣りに集中できます。父のように手元が少し不自由になっても、ライントラブルを気にせず扱える、まさに『優しさと実用性』を兼ね備えた一本です

ダイワ(DAIWA) インターライン リーガル 1.5号-53

磯竿のスタンダードとして長年愛される名機です。驚くほど手頃な価格ですが、大型の黒鯛とも十分に渡り合える粘り強さを持っています。まずはここから始めれば間違いない、私たちが長年信頼を置いているコストパフォーマンス最強のロッドです。

ダイワ(DAIWA)磯・波止釣りロッド リバティークラブ 磯風 K1.5-53

2,000円のリールが刻む、父の釣り人生

リールについても、父のこだわりは「シンプル」であることです。 釣具店で箱無しで売られているような、2,000円前後のスピニングリール(2500〜3000番)を好んで使っています。道糸はナイロンの2号か3号。

最新のドラグ性能や軽さはありませんが、父の手には、その少し無骨で使い慣れたリールの感触がしっくりくるようです。どんなに安価なリールでも、父が巻けばそれは立な「戦友」に変わります。

【初心者からベテランまで愛される定番リール】

ダイワ(DAIWA) スピニングリール(糸付き) 16 ジョイナス 2500
AbuGarcia(アブガルシア)CARDINAL III S2500D スピニングリール 糸付き

継続は力なり!?「定番」を信じ抜く仕掛け

父の仕掛けは、驚くほどアナログで、かつ「チヌのフカセ釣り」としては極めて基本に忠実なスタイルです。

かつてはウキゴムに「爪楊枝」を刺してウキ止めにしていました。ハリス1.5号にチヌ針2号。手元にある在庫がなくなるまで、頑なにこの「いつものセット」を繰り返します。

【黒鯛狙いの定番 ウキ・仕掛け】

ウキに関しては、自立式の棒ウキを頑なに愛用しています。真っ直ぐ立っているウキが、スーッと沈んでいく瞬間は、一度体験したら虜になってしまうのでしょう。

キザクラ(Kizakura)自立チヌ 

かつてはウキゴムに「爪楊枝」を刺してウキ止めにしていましたが、さすがに今はワンタッチ式のウキ止めと絡まん棒を使用しています。

ささめ針(SASAME) P-368 道具屋 ウキ止めゴムお徳用 S
ささめ針(SASAME)P-287 道具屋 止マルン棒 M

ハリス1.5号にチヌ針2号。手元にある在庫がなくなるまで、頑なにこの「いつものセット」を繰り返します。

OWNER(オーナー)糸付 40441 2mカット黒チヌ 2-1.5 

実は、私もほぼ同じスタイルを貫いています。特別な最新釣法に頼らなくても、この基本に忠実な仕掛けで、私たちは毎年確実に釣果を上げてきました。興味のある方は、ぜひ一度試してみてください。

父が「黒鯛」を追い続ける限り、私は何度でも海へ行く

私の父は、決して人に自慢できるような「理想の父親」ではなかったかもしれません。
短気なところもあれば、呆れるほど頑固で、そして少しケチな一面もあります。

それでも、私にとっては世界にたった一人の父親です。

激しくぶつかり合うこともあります。
けれど一度海へ出て、隣同士で竿を並べれば、いつの間にかいつもの親子に戻っています。

幼い頃から今日まで――
釣りという共通の趣味が、言葉にできない私たちの絆を、ずっと繋ぎ止めてくれていたのかもしれません。

86歳になった今、思うように体が動かなくなっても、父は海へ向かいます。
不自由な手で懸命に竿を握るその横顔は、私にとって誇り高い「釣り師」の姿そのものです。

皆さんのそばにも、大切な「釣りの相棒」はいらっしゃいますか。
あるいは、かつて背中を追いかけた、忘れられない釣り師はいますか。

時の流れとともに、行ける場所や釣り方は変わっていくでしょう。
それでも、共に海を眺め、静かにウキが沈む瞬間を待つ時間は、何にも代えがたい宝物だと私は信じています。

これからも、父が「海へ行きたい」と言う限り、私はハンドルを握り続けます。
いつか来るその日まで、一回でも多く、父と笑いながら竿を出せますように。

皆さんもどうか、大切な人とのかけがえのない釣行を楽しんでください。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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